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不識、喫茶去

日本画と文化について

NHK「第1回 江戸あばんぎゃるど」私的まとめ -その3

2026年1月11日

※この記事は2019年1月にブログに上げた記事の書き直しです。

2019年1月に放送されたNHKの「第1回 江戸あばんぎゃるど」の私的まとめの続きの最後、その3です。

5. ハリー・パッカード

番組では、田島充さんという美術商の方がご自身の思い出を話されていた。「 シャーマン・リーは強引だった」と言われるとともに、パッカードについては、パートナーとしてアメリカでビジネスをしたにもかかわらず、お金の問題で決別したともおっしゃっていた。当時のアメリカに対する日本人の立場などが推察される。

パッカード・コレクションのあるメトロポリタン美術館といえば、琳派好きの私などは尾形光琳の「八橋図屏風」や鈴木其一の「朝顔図屏風」 が想起されるが、調べてみると、これらは当然ながらパッカード・コレクションではない。光琳の「八橋図屏風」は1953年のアラン・プリースト東洋部長によるものらしい(根津美術館2012年Korin展図録村瀬実恵子氏巻頭論文)し、其一の「朝顔図屏風」は1954年購入らしい(2016–2017年鈴木其一展図録ジョン・T・カーペンター氏論文)ので多分同じプリースト氏によるものと思われる。つまりこれらは、この番組でもひとつの論点だった戦後のいわば一連の流出期にアメリカへ行ってしまったものたちと見ていいだろう。

では404点に及ぶというメトロポリタン美術館のパッカード・コレクションで私が見ることができたもの(つまり展覧会で日本にきたもの)はなにがあったのだろうかと思って振り返ってみた。

まずは、なんと言っても映画「インセプション」にも登場したという(もちろん映画ではレプリカだろうが)狩野山雪の「老梅図襖」がある。これは2013年4月、5月に京都国立博物館で開催されていた「狩野山楽・山雪」展で見ることができた。豪華で楽しい感じの展覧会のパンフレット(全4ページ)があって、その最後のページでもこの絵を大々的にフューチャーしている。

2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットとチケット
2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットとチケット
2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットの「老梅図襖」と「群仙図襖」
2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットの「老梅図襖」と「群仙図襖」
2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットの楽しい感じの見開き
2013年京都国立博物館「狩野山楽・山雪」パンフレットの楽しい感じの見開き

展覧会では、襖の反対面にあたるミネアポリス美術館所蔵の「群仙図襖」とあわせて、二面をあわせて元の襖の形で展示されていて、パンフレットには、これを「展覧会がもたらす奇跡」とまで書いている。番組では、パッカードはこの二面の襖を買った値段で、片面の「群仙図襖」だけを売ったので、「老梅図襖」のほうは丸儲けにしてしまったのだと紹介していた。

閑話休題だが、「群仙図襖」はミネアポリス美術館所蔵だから、これをパッカードから買ったのはもしやメアリー・バーク?などと勘ぐってみたが、美術館サイトで検索して「群仙図襖」の詳細を見るとTHE PUTNAM DANA MCMILLAN FUNDという財団名がある。この財団についてはよくわからないが、やはりそれはないのだろう。

その他で、パッカードのコレクションを見たのは2016年にサントリー美術館で開催された「鈴木其一」展での「文政三年諸家寄合描図」くらいだろうか。

なお、パッカードには『日本美術蒐集記』(1993年新潮社)という著書があるらしいが今は絶版になっている。アマゾンなどでみると訳者名がないので本人が日本語で書いたのだろうか。さすがである。京都の天香堂という古美術店がホームページで短い要約記事を書かれていて読むとわりと興味深そう。今度の古本まつりで探してみようと思う。

6. メアリー・グリッグス・バーク

2016年の東京都美術館での生誕300年記念「若冲」展は、本当に大盛況で日本経済新聞の記事によると「31日間の会期中の入場者数は約44万6千人を記録」で「(1日の)平均入場者数も同約1万4千人で、同館の展覧会としてはいずれも過去最高だった」とある。

バークコレクションの「月梅図」が展示された2016年東京都美術館「若冲」展
バークコレクションの「月梅図」が展示された2016年東京都美術館「若冲」展

この展覧会では「米国収集家が愛した若冲」と題する区画があって、その殆どはエツコ&ジョー・プライス・コレクションだったが、先頭を切っていたのはメトロポリタン美術館のバーク・コレクションであり、番組でも映像に出ていた「月梅図」だった。

このバークの「月梅図」が若冲展において展示されたのは、この若冲展の目玉である「動植彩絵」の「梅花皓月図」と同じ構図なので、同じ下絵を用いていると考えられるからのようだ。

この図録の作品解説の「月梅図」の項には、上記二つの作品の比較が解説されているだけでなく、バーク夫人の来歴もかかれている。それによるとバーク夫人はアメリカの名門グリッグス家とリヴァイングストン家の血をひく上流階級出身で、コロンビア大学で美術を専攻、1954年に来日して各地を巡り、翌年にジャクソン・バーク氏と結婚、以後50年以上に及び夫婦で日本美術を収集したとある。メトロポリタン美術館への寄贈は夫人の没後で2015年のことだそうだ。

ところで、これも閑話休題だが、この図録の論文では、「月梅図」の所蔵を「旧バーク・コレクション」と「旧」を付けて呼んでいる。これは、バーク夫人から寄贈されたものを指し、それ以降のものと分けているということなのだろうか。わからない。ただ、わからないし、それとは関係ないのだが、番組でやっていた、パッカードは自分が売ったコレクションにメトロポリタン美術館が「パッカード・コレクション」という名を冠するなら半額にすると言ったという話だったのが妙に想起された。

「若冲」展以外では、2016年のサントリー美術館での「鈴木其一」展でメトロポリタン美術館のバーク・コレクションを見ることができた。「花菖蒲に蛾図」は、琳派らしからぬ精密さと、それ以上に、経年によるものなのかもしれないが、その色合いが独特で個人的にはすごく印象的な作品だったことを覚えている。

2016年サントリー美術館「鈴木其一」展の二種類のチラシと美術館ニュース
2016年サントリー美術館「鈴木其一」展の二種類のチラシと美術館ニュース

「鈴木其一」展図録のジョン・T・カーペンター氏論文によるとバーク財団が「花菖蒲に蛾図」を入手したのは2015年だとある。つまりバーク夫人が亡くなったあともバーク財団は日本美術を収集しつづけているということか。しかもメトロポリタン美術館の中で?よくわからないが、いつかわかったらこの記事を更新しよう。

まとめは以上です。